本は好きだが、読書は苦手。

はてなIDを変更したのでURLが変わりました(2019.10)。元「timeisbunny」(半年に1回、更新が目標)

(疑問) 親潮は、なぜ栄養が豊富なのか、調べてみた。


 

親潮は、栄養分が多く、魚介類を育てるため「親」潮と呼ばれる、
という説明を見かけた。
ただ、なぜ栄養が豊富なのか、理由が書かれたものはあまりない。
あったとしても、出典が記されていないか、英語の論文ばかり。
そこで、本などで調べてみた。

 


注意

自分は専門家でも研究者でもないので、正確かどうかはわかりません。
根本的に間違っている可能性も大いにあります。
あしからず。

 

 

目次

1、  まとめ
2、  まとめの具体的な説明
3、  黒潮との違い
4、 「親潮」という名称の由来(語源)について
5、  出典・参考文献

 

 


1、 まとめ


自分が調べた限りでは、大きく3つの理由があった。

簡潔にまとめると、


1、風や冷却により海水がかき混ぜられ、下層にある栄養分が上昇するため

2、オホーツク海にある栄養分が流れ込むため

3、千島列島などを沿って流れてくる海水が、栄養分を運んでくるため


以上の理由により「親潮は栄養が豊富」、なのかもしれない。

 

 

 

 

2、 まとめの具体的な説明

 

2-1、「風や冷却~」について
 2-1-1、補足説明:「深層循環の湧昇」について
 2-1-2、補足説明:「中層(200~1000m)にある栄養塩」について

2-2、「オホーツク海~」について
2-3、「千島列島など~」について

 

親潮について気象庁のウェブサイト)
http://www.data.jma.go.jp/kaiyou/data/db/hakodate/knowledge/oyashio.html
http://www.data.jma.go.jp/kaiyou/shindan/sougou/html_vol2/2_2_3_vol2.html

かなり詳しい説明。

 



2-1、

「風や冷却によって海水がかき混ぜられて、下層にある栄養分が上昇するため」について


冬になると、北西から吹きこむ季節風(冬季モンスーン)により、
海水の表層(0m~200m)がかき混ぜられる*1
すると、中層(200~1000m)・中深層(200~?m)*2 にある栄養塩(栄養分のこと)*3 が上昇し、
表層にも栄養が行き届く *4

また、海面が冷えると重くなって下に沈む。
そのときも、中層にある栄養塩がまき上げられる。
ただし、親潮の元になる海水は塩分が低いため、あまり沈みこまない *5
なので、結局この冷却による沈みこみが、どのくらい海水の攪拌に影響を与えるのか、
調べたけれどよくわからなかった。

そして、冬にこれらのことが起こり、やがて春になると日射量が増える。
すると、豊富な栄養塩によって植物プランクトンが大増殖する(スプリング・ブルームという)。

 

 

 

・補足

 

2-1-1、

本や研究機関のウェブサイトには、
「深層循環 *6 の湧昇(ゆうしょう)により、表層に栄養塩が増える」と書いてあるものが多い。
ただ、北太平洋での深層循環の湧昇は、2000~3000mぐらいまでらしい *7

風によって混ざる海水は、せいぜい1000mぐらいまで。
なので、2000mあたりの栄養塩が、どのくらい表層に届いているのか、調べたけれどよく分からず *8
確信が持てなかったので、上記のまとめには「深層循環の湧昇」とは書かなかった。
ちなみに、現在それについて調べている研究機関もあるみたい *9

もしかしたら、その2000mあたりに湧きあがった栄養のある海水が、
さらに上層の攪拌によって、表層に上がっているのかもしれない。
つまり2段階になっているのかも。

 



2-1-2、

先程、「中層(200~1000m)にある栄養塩」と書いたが、自分はこれが気になっていた *10
ふつう、栄養分は海底などに沈んでいるものだと思っていたので、違和感があった。
だが、気象庁のサイトにある栄養塩の鉛直分布の表でも、200m以深から栄養塩が増えている *11

そこで、なぜ比較的浅い場所にも栄養分があるのか。
調べてみた。

1つは、
200m以下は、光が届かないため(無光層)、光合成が必須の植物プランクトンがあまりいないこと。
もう1つは、海中のバクテリア(細菌)などによって、
沈降する有機物(プランクトンの遺骸や糞 *12 )が、海底へ落ちるまでに分解され *13
無機物(栄養塩)となり、200~1000mでも漂っていること。

つまり、200m以下は、植物プランクトンがほとんどいないため、
バクテリアにより分解された無機物(栄養塩)がほとんど消費されない。
そのため、200~1000mの中層・中深層であっても栄養分が存在する、と思う。

ちなみに、表層でも有機物は無機物に分解されるが、
植物プランクトンなどによってすぐに消費される *14
そのため、あまり存在しない。

もちろん、海底にも、沈降した有機物が分解されてできた無機物(栄養塩)はたくさん存在している。
ただ、それらがどれほど表層まで届いているのか、調べたけれどわからなかった。

 

 


2-2、

オホーツク海にある栄養分が流れ込むため」について

オホーツク海アムール川などから栄養(栄養塩、鉄)が流れ込む *15
そのため、栄養が豊富になる。

 


2-3、

「千島列島などを沿って流れてくる海水が、栄養分を運んでくるため」について

親潮を含む海流の「北太平洋亜寒帯循環」(反時計回り)が、
アリューシャン列島やカムチャッカ半島、千島列島を沿って流れてくる。
そのとき、沿岸に渦 *16 ができ *17 、栄養塩が巻き上がる。
あと、川から栄養塩が流れ込むのもあると思う。

沿岸では他に「沿岸湧昇」という現象も起こるらしいが、
大陸の東岸(黒潮など)では起こりにくいらしい *18

 

 

 


3、 黒潮との違い

親潮と同じく、黒潮の200m以深にも栄養塩は存在している *19
ただ、表層が温かいため、下層には沈みこまず、攪拌(鉛直混合)があまり起こらない *20
よって、表層にはあまり植物プランクトンが増えない。


あと、鉄の増減にも影響されているらしい *21
親潮には鉄が豊富だが、黒潮にはほとんどない。

ただし、日本列島に沿って流れることで、先程書いた渦が起こり、
北上していくごとに栄養塩が増えていき、植物プランクトンも増えていく *22


まとめると、

黒潮親潮の違いは、鉛直混合が起こりやすいか否か、栄養分が流れ込むか込まないか、など。
共通点としては、沿岸にそって流れるため、渦ができること。

 

 

 

 

4、「親潮」という名称の由来(語源)について


残念ながら、ハッキリとした由来は不明。


自分がネットで調べた限り、
語源についての最も古い言及は、昭和13(1938)年の『科學』の8巻10号にて *23

語源については「よく分らない」と書いてある。
また、
「親即ち東北地方沿海の海の幸を涵養する源となる寒冷な寒流の意味で名づけられたものか?
東北地方では“雪しろ水”といふ名は昔からあつたやうであるが
親潮の稱呼(しょうこ?)がいつの頃からかも分らない.(以下略)」とある。

その後、同じ執筆者(宇田道隆氏)が1949年に著した本 *24 では、
親潮といふ名は、東北地方の漁師などが言ひ出したものと思はれる。
『親』は養ふといふ意味があつて、魚や海藻などの海の生物を養ひ育てる、
榮養分の多い潮といふ風に解釋することが出來る。」とも書いている。

 
また、「親潮」と記された最も古い文献は、
これまたネットで調べた限りでは、明治20(1887)年の『東洋學藝雜誌』の4巻74号 *25

p.665に「(中略)俗ニ親潮ト申シマス」と書いてある。
第一高等中学校の教諭による講談での発言、とのこと。

かなり古い言葉みたい。江戸時代の頃からあった名称だろうか?
調べようと思ったけれど、江戸時代の文献や崩し字については明るくないので、
これ以上は辿れませんでした。無念。

 

 

 

 5、 参考文献・出典(順不同)

 
『海の教科書 波の不思議から海洋大循環まで』(柏野祐二、ブルーバックス B-1974、2016)

『日本の海はなぜ豊かなのか』(北里 洋、岩波科学ライブラリー188、岩波書店、2012)

深層水「湧昇」、海を耕す!』(長沼毅、集英社新書 0363G、2006)

『森が消えればも死ぬ 陸と海を結ぶ生態系』(松永勝彦、ブルーバックス B-977、1993)

『海水の疑問50 みんなが知りたいシリーズ4』(日本海水学会編、成山堂書店、2017)

『はじめての海の科学 JAMSTEC BOOK』(JAMSTEC Blue Earth 編集委員会編、発行:ミュール、発売:創英社/三省堂書店、2008)

『海洋生物学 地球を取りまく豊かな海と生態系』(Philip V.Mladenov、窪川かおる訳、丸善出版(サイエンス・パレット022)、2015)  

 

 

*1:風などによる海水の循環のことを風成循環という。1000mぐらいまで影響を与えるとも。(『海の教科書』p.146、pp.169-170)

*2:水深の各層の名称や深さは、本などによって違い、厳密な定義は無さそう。ちなみに、0~200mは表層、または有光層といい、200~1000mは、トワイライトゾーン(透光層・薄光層)とも呼ばれる。(『日本の海はなぜ豊かなのか』p.65、NHKスペシャル『ディープ・オーシャン 潜入!深海大峡谷 光る生物たちの王国』2016年8月28日)

*3:ケイ素(ケイ酸)、リン(リン酸塩)、窒素(硫酸イオンなど)などの塩類。(『海の教科書』p.106)

*4:『栄養塩は、冬季の強い季節風によって海がかき混ぜられることにより海の深層から表層へ運ばれたり、岸に沿って流れる海流による上昇流、河川水等の影響によって表層へ供給されます。』http://www.eorc.jaxa.jp/earthview/2004/tp040108.html「日本近海の海洋植物プランクトンの春季大増殖」JAXA一宇宙技術部門

*5:『海の教科書』p.116、pp.170-171

*6:海底を巡る海流のこと。その後、いくつかの大洋で浮上する。熱塩循環、子午面循環とも。ただし、最近では南極で作られた深層水の影響力が最も強いことから「南極オーバーターン」とも呼ばれる。(『海の教科書』p.174)

*7:http://www.data.jma.go.jp/kaiyou/db/mar_env/knowledge/deep/np_deep.html(「太平洋における深層循環」気象庁

*8:川邉正樹氏によると、風による海水の攪拌は2000mまで起こる、とも。https://www.jcca.or.jp/kaishi/251/251_toku3.pdf(2ページ目の「表中層循環」の項目に書いてある)

*9:http://omix.aori.u-tokyo.ac.jp/overview/longversion/「海洋混合学の創設」

*10:どこかで「栄養塩は200~1000mにもある」と記載されていたが、出典を忘れてしまった。ごめんちゃい。

*11:http://www.data.jma.go.jp/kaiyou/shindan/sougou/html_vol2/2_2_3_vol2.html#fig2_2_3-5.jpg親潮の水温と化学成分」気象庁

*12:「デトリタス」という。また、それが沈降していく様子は「マリンスノー」と呼ばれる。どちらも言葉の響きがカッコいい。

*13:『日本の海はなぜ豊かなのか』pp.14-16・pp.57-58、『深層水「湧昇」、海を耕す!』pp.65-67

*14:深層水「湧昇」、海を耕す!』pp.106-107

*15:http://www.data.jma.go.jp/kaiyou/shindan/sougou/html_vol2/2_2_3_vol2.html親潮とその起源」気象庁https://ci.nii.ac.jp/naid/130005457057/オホーツク海親潮の巨大魚附林としてのアムール川流域」、http://www.eorc.jaxa.jp/earthview/2004/tp040108.html「日本近海の海洋植物プランクトンの春季大増殖」JAXA一宇宙技術部門

*16:メソスケール渦、またはサブメソスケール現象による渦

*17:『海の教科書』pp.139-140

*18:深層水「湧昇」、海を耕す!』pp.108-110

*19:深層水「湧昇」、海を耕す!』pp.113-114、『森が消えればも死ぬ』p.42

*20:「どうして表層の海水と深層の海水は混ざらないの?:表層の暖かい海水と深層の冷たい海水の間、深さ数百mくらいに温度が急激に変化する「水温躍層」という層があります。暖かい水は軽く、冷たい水は重いので何か強い力でかき混ぜられない限り両者は混じることはありません。風呂の水を温めると上が熱く、下が冷たい状態になり手でかき混ぜないとちょうどよい温度にならないことと同じです。」 『はじめての海の科学』p.21

*21:深層水「湧昇」、海を耕す!』pp.114-120、『森が消えればも死ぬ』p.88

*22:NHKスペシャル黒潮 ~世界最大 渦巻く不思議の海~」2017年9月17日、サイエンスZERO「巨大海流 黒潮」2018年1月21日

*23:http://lib.s.kaiyodai.ac.jp/library/maincollection/uda-bunko/resources/pdfs/gyouseki/107.pdf(2ページ目の左上に書いてある)

*24:『海と魚 : 潮目の話』(岩波書店http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1168625/55

*25:https://books.google.co.jp/books?id=YiM7AQAAMAAJ&vq=%E8%A6%AA%E6%BD%AE&hl=ja&pg=PP763#v=onepage&q=%E8%A6%AA%E6%BD%AE&f=false