本は好きだが、読書は苦手。

はてなIDを変更したのでURLが変わりました(2019.10)。元「timeisbunny」(半年に1回、更新が目標)

「皇帝ペンギンの名前の由来は、王様ペンギンより大きかったから」は本当か、調べてみた。

 

 

『動物トリビア図鑑: 明日から使える動物雑学100問』(2011)という本に、

 

『オウサマペンギン(キングペンギン)とコウテイペンギンがいるが、
90センチもある大きなペンギンを見つけた時、キングペンギンと名付けた。
しかしその後、120センチものペンギンが見つかった。
そのため、キングよりも偉いコウテイと名前をつけた』

 

というトリビアが書いてあった。


すごく面白かったので、興味がわいて、もっと詳しく知りたくなった。


このトリビアの出所はどこだろう?と思って調べてみたが、どこにも出典がない。
ウィキペディアにもこのトリビアが書かれているが、出典は明記されていない。


トリビアは、キングペンギンの「分布」の項に書いてある。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AD%E3%83%B3%E3%82%B0%E3%83%9A%E3%83%B3%E3%82%AE%E3%83%B3



そこで、ネットや本で調べてみた。
調べた経緯は、ちょっと長いので、下のほうに記してある。

 

 


・結論から先に述べると、

なぜエンペラーと名付けたのか、その理由が書かれた箇所は、残念ながら見つけられなかった。
よって、本当かどうかは謎のまま。 ごめんちゃい。

 



・調べた結果をまとめると、

初めて「Emperor penguin」と記載されたのは、1844年。
(「キングペンギン」は1778年)


『List of the Specimens of Birds in the Collection of the British Museum』という書籍に書いてある(p.156)。
https://books.google.co.jp/books?hl=ja&id=8NcZAAAAIAAJ&q=emperor

書いた人は、大英博物館に所属していた動物学者のジョージ・ロバート・グレイ。

探検家のジェイムズ・クラーク・ロスが持ち帰ったペンギンをグレイが調べると、
キングペンギンとは違う新しい種類だとわかり、命名したらしい。
ただ、エンペラーペンギンと記載されているだけで、命名の理由までは書かれていなかった。

たぶん、その記述から、
後世の人が「キングよりも大きかったからエンペラーにしたのでは?」と推測して、
上記のトリビアが生まれたのだと思う。


ネットでは、そんな安直なwという意見もあるが、自分はオモロイじゃんと思う。


結局、真実は命名者のみぞ知る。
残念。

 

 

 

 

 

・調べた経緯

 

調べようと思った理由は、上記のとおり。


まず、ウィキペディアをチェック。
しかし、日本語版には参考になる記述は無し。

英語版を見ようと思ったけど、英語はちんぷんかんぷんなので、後回しにした。
ただ、この判断が失敗だった。
なぜなら、最終的にたどり着いた情報が、英語版にほとんど書いてあったから。
先に調べておけばよかった・・。

 


ま、それは置いといて、
ネットで「コウテイペンギン 発見」と検索したら、
2ページ目に、amazonの『皇帝ペンギン物語』というドキュメンタリー映画がヒットした。
その内容説明に「1902年に南極大陸でスコット探検隊のウィルソンによって発見された」とある。

 


そこで、ふと、HONZの本レビューで、グーグルの書籍検索のリンクが紹介してあることを思い出した。

全世界の本を分析した研究記録『カルチャロミクス 文化をビッグデータで計測する』
http://honz.jp/articles/-/42472

Google Ngram Viewer
https://books.google.com/ngrams

 

これをさっそく使ってみようと思い、
「Emperor penguin」と入力し、1902年あたりで記載された本があるかを調べた。
探検隊の報告書みたいなものがあるはず、と。

 

https://books.google.com/ngrams/graph?content=Emperor+penguin&year_start=1800&year_end=2000

 

すると、1900年あたりから、たしかに増えている。
さすがグーグル先生だ!と、ひとり寂しくグラフを見て喜んだ。

ただ、なぜか1902年以前にも、わずかに存在している。
1902年に発見されたはずなのに、なんかの間違いだろうと思い、
無視して1902年に出版された書籍の中身を調べた。


Report on the Collections of Natural History Made in the Antarctic Regions During the Voyage of the "Southern Cross."
https://books.google.co.jp/books?id=qV_PAAAAMAAJ&q=%22emperor+penguin%22

Wide World Magazine, volume 9 (May 1902–Oct 1902)
https://books.google.co.jp/books?id=duRAAQAAMAAJ&dq=%22emperor+penguin%22
https://archive.org/stream/wideworldmagazin09londuoft#page/132/mode/2up



書籍内検索で「Emperor penguin」を検索すると、たしかに記載されている。
ただ、新しい種類だ!とかそういうニュアンスの文章ではない。
もしかして、1年前の1901年だったのでは?と思い、そっちも調べた。



The Antarctic Manual for the Use of the Expedition of 1901
https://books.google.co.jp/books?id=DbwEAAAAMAAJ&q=%22emperor+penguin%22

First on the Antarctic Continent: Being an Account of the British Antarctic Expedition, 1898-1900
https://books.google.co.jp/books?id=aMRgMxzhEI8C&q=%22emperor+penguin%22



すると、これらも存在しているのが当たり前のように書かれている。
もしかして、もっと前なのかもしれないと思い、
さっきの、検索ミスだとみなした19世紀の本を調べてみた。



Knowledge: A Monthly Record of Science, 第 17 巻 1894
https://books.google.co.jp/books?id=nVFDAQAAMAAJ&q=%22emperor+penguin%22

The Ibis Volume 30, Issue 3 - 1888
https://books.google.co.jp/books?id=yBlGmAcwbMcC&q=%22emperor+penguin%22



すると、この2冊にも、すでに「Emperor penguin」と書かれている。

ということは、さらに昔に命名されていた?
でも、それ以前に出版された本は、検索結果に無い。



うーん、どうしようと思って、いろいろ調べていたら、
さっき紹介した、1902年に出版された、

Report on the Collections of Natural History Made in the Antarctic Regions During the Voyage of the "Southern Cross."
https://archive.org/stream/reportoncollecti00brit#page/108/mode/2up

という書籍の、ペンギンに関するページに、
1888年や1894年に出版された書籍と並んで、
「1844」という数字が書いてある。

もしやこれでは?と思い、調べてみた。



すると、世界の鳥のデータサイトにたどり着いた。
http://avibase.bsc-eoc.org/species.jsp?avibaseid=58848B7175EB4B3C

論文とか報告書とかではなく、ふつうのサイトに1844年と書いてある。
最初から調べておけば・・・とガックリきた。

 

それはさておき、
やっぱり最初に書かれたのは、1844年だと判明した。

そのサイトでは、出典は「Ann.Mag.Nat.Hist.(1) 13 p.315」だと書いてある。
そして、grayらしき文字も気になる。

しかし検索しても出てこない。
ここで行き詰まってしまった。

 

で、また、いろいろ調べていたら、
コウテイペンギン英語版ウィキペディアに「1844」という数字が。
しかも、grayという文字も書いてある。

最初から英語版を調べていたら・・・と、またガックリきた。

 

「Taxonomy」のところに書いてある
https://en.wikipedia.org/wiki/Emperor_penguin

 



どうやら、grayとは「George Robert Gray」という動物学者の名前で、
彼が命名者だとわかった(彼は他にもいろんな生き物に命名している偉い人らしい)。

ジョージ・ロバート・グレイ
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B8%E3%83%A7%E3%83%BC%E3%82%B8%E3%83%BB%E3%83%AD%E3%83%90%E3%83%BC%E3%83%88%E3%83%BB%E3%82%B0%E3%83%AC%E3%82%A4



グーグルの書籍検索で、彼の名前を調べると、1844年に何冊か出版している。
そして、それぞれの本で「emperor」を検索すると、1冊だけが引っかかった。

List of the Specimens of Birds in the Collection of the British Museum
https://books.google.co.jp/books?id=8NcZAAAAIAAJ&q=%22emperor%22


ただ、エンペラーと命名した理由は書かれていない。
これまた困った。


そこで再度、手掛かりはないかと英語版wikiを読んでいたら、
学名の由来の出典として、大英博物館の記事のリンクが貼ってあった。


Emperor penguin
https://en.wikipedia.org/wiki/Emperor_penguin

British Museum. "King penguin: The Forsters, King and Emperor"
https://web.archive.org/web/20151019091727/http://www.britishmuseum.org/explore/highlights/highlight_objects/loan_in/k/king_penguin.aspx


見てみると、そこには、
「ロスが持ち帰ったペンギンは、キングペンギンとは違う種類だと気付いた。」
みたいなことが書かれていた(たぶん)。

ロスとは、英国の海軍軍人であり探検家のジェイムズ・クラーク・ロスのことで、
彼は、1839年から1843年まで、南極を探検していた。
コウテイペンギンは、1844年に命名された可能性があるので、
この探検で見つけたのかも。


そこで、ロスの著書も調べると、
いくつか「penguin」と書いてあるが、「emperor penguin」という文字は無かった。

A Voyage of Discovery and Research in the Southern and Antarctic Regions, During the Years 1839-43
https://books.google.co.jp/books?id=Rz-xWiq60esC&q=%22penguin%22


ということは、やはりグレイが「emperor」の名付け親かもしれない。

そのあと、グレイがエンペラーと名付けた理由が書いてある文章を探したが、
残念ながら見つけることはできなかった。

 


というわけで、はじめの結論の繰り返しになるが、
たぶん、グレイが「Emperor」と書いていたので、
これを読んだ後世の人が「kingより大きかったので、emperorにしたんじゃない?」
と推測したのだろう。
そして、あのトリビアが生まれた、と思う。

 

ちなみに、1902年に発見したという情報は一体なんだったんだと再度調べたら、
ウィキペディアに「生息地を発見」と書いてあった。
「存在を発見」ではなかったのか・・・。またまたガックリきた。

 

「1902年」に「コウテイペンギン生息地を発見した」とある。

ディスカバリー遠征 - Wikipedia


でも、ネットのおかげでここまで調べることができた。
やっぱり、ネットは広大だわ・・・。

 

とまぁ、最初に書いた通り、結局、理由はわからず仕舞い。
でも、探す過程は面白く、自己満足できたので、良しとしたい。